冬瓜

冬瓜

冬瓜 1984 紙本着色 76.5_46.5 小泉淳作美術館蔵

冬瓜 1984 紙本着色 76.5_46.5 小泉淳作美術館蔵

――私は農家に頼んで実の充実したころに畑に行き、形の気に入ったいくつかに目印の竹を刺しておき、充分に大きくなってから譲ってもらう。その時はすごく重くなって、かかえて歩くのもちょっと骨が折れる。できたての冬瓜は一面の剛毛が生えていて、素手ではチクチクと痛いくらいである。アトリエに置いてそのまま半年ぐらいはもつから、遅筆の私には具合のよいモチーフだ。

そして冬瓜をじっと見ていると凄い。存在感のある点で、ほかの野菜より断然傑出していると思う。そして神秘的でさえある。まだ地上に出現して数ヵ月なのに、まるで千年、万年も生きているような顔をしている。深い緑の肌の一面に白い粉をまぶしたようなかびが模様を作って、まるで地球の海のようだ。そして放射状の雲のような線は季節風でも吹き込んでいるのか。そして黄色くかさけたような島じま、それらが大きく、強い一つの球で統一される。どう見ても一個の地球だ。私はじっとそれを見ながら、しだいにドラマを作り上げてゆく。

ここ数年、新しい品種の冬瓜の栽培が盛んになってきた。やや細長い、ちょっとラグビーのボールのような形のやつだ。この方がちょっと小ぶりだし、切り売りにも具合が良いし、箱につめやすい点もあって、だんだんこれに切りかわっているようだ。しかしこれは面白くない。色も良くないし形もつまらない。私は丸いやつの種を切らさないように頼んでいるが、いずれ細長い形のやつに全部なってしまうのではないだろうか。(文芸春秋社刊『随想』より抜粋)


冬瓜 部分1   冬瓜 部分2